要点まとめ
- 会社には、従業員の心身の健康を損なわないよう配慮する安全配慮義務があります(労働契約法に明文化)。従業員数にかかわらず、50人未満の会社にもあります
- 問われるのは「不調にさせたこと」そのものより、「兆候を把握できたのに、対応しなかったこと」です
- ストレスチェックと面接指導は、「兆候の把握 → 医師の意見 → 働き方の調整」という義務を果たした記録を残せる、数少ない定型的な仕組みです
1. 安全配慮義務とは——小さな会社にも例外なくある
安全配慮義務は、労働契約にともなって会社が当然に負う義務で、労働契約法第5条に「労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定められています。この「身体等」には心の健康も含まれると解釈されており、会社の規模による免除はありません。
違反した場合に起きるのは、行政の罰則というより民事の損害賠償です。長時間労働やハラスメントを背景にメンタル不調・自死に至った事案では、会社に高額の賠償が命じられた判決が複数あります。
2. 責任を問われる典型パターン
裁判例・労災認定の実務でよく問題になるのは、次のような経過です。
- 過重な業務が続いていた(長時間労働、急な業務増、達成困難なノルマ)
- 不調の兆候があった(遅刻・欠勤の増加、ミスの急増、本人や同僚からのSOS、健診の結果、ストレスチェックの集団分析の結果や面接指導の意見書)※個人のストレスチェック結果は、本人の同意がない限り会社は見られません
- 会社が把握できる立場にいたのに、業務量の調整や受診勧奨などの対応をしなかった
- 発病・休職・最悪の事態に至った
ポイントは2と3です。「知らなかった」では済まされず、知り得たかどうかまで問われます。そして、ストレスチェック義務化後は「年1回、全員のストレス状態を把握する機会が制度として存在する」ことが前提になります。実施していないこと自体が、「知る努力を怠った」と評価される材料になり得ます。
3. ストレスチェックが会社を守る3つの理由
ストレスチェックは従業員のための制度ですが、正しく運用すれば会社の法的な備えにもなります。
- 把握の仕組みがあったことの証明 — 年1回、専門機関を通じて全員にセルフチェックの機会を提供した記録が残る
- 医師の意見に基づく対応の記録 — 高ストレス者の面接指導 → 医師の意見書 → 就業上の措置(対応フロー)という一連の記録は、「兆候に対して専門家の関与のもと対応した」ことを示す定型的な記録になる
- 職場要因の改善 — 集団分析に基づく職場環境の改善は、そもそも不調者を出さない一次予防であり、取り組みの記録自体にも意味がある
逆に特に危険なのは、実施したのに結果を放置することです。医師の意見書を受け取りながら何の措置もしなかった場合、「知っていたのに対応しなかった」という構図を自ら作ることになります。
4. 50人未満の会社が今やるべきこと
- ストレスチェックの実施体制を整える(2028年4月1日から、従業員50人未満の事業場もストレスチェックの実施が義務になります(義務化の解説)。一方、安全配慮義務は今もあります)
- 長時間労働の把握(勤怠記録)とセットで運用する——労災認定でも労働時間は常に中心的な争点です
- 不調のサインを見たら、「様子を見る」ではなく産業保健の専門職(医師)につなぐルートを決めておく
- 対応した内容は日付入りで記録する
当サービスでは、把握(検査)→医師の関与(面接・意見書)→記録(5年保存)の部分をまとめて委託できます。勤怠による労働時間の把握や、医師の意見を踏まえた就業上の措置の決定・実施は、会社の仕事として残ります(措置の進め方は高ストレス者が出たら会社は何をする?)。
よくある質問
Q. ストレスチェックさえやれば安全配慮義務は果たしたことになりますか? A. なりません。ストレスチェックは「把握と対応の仕組み」の一部です。長時間労働の管理、ハラスメント対応、医師の意見に基づく措置まで含めて評価されます。
Q. 本人が面接指導を受けたがらない場合、会社の責任はどうなりますか? A. 申出がない場合に面接を強制することはできません。申出しやすい環境(不利益取扱い禁止の周知など)を整えた記録を残すことが、会社として合理的な対応になります。
Q. 役員や経営者自身のメンタル不調は対象ですか? A. 安全配慮義務は労働者に対するものですが、経営者自身の健康も事業継続のリスクです。対象者の範囲もあわせてご覧ください。